ミスをしたことのない者だけが石を投げなさい
頼まれたことをすっかり忘れていた。 うっかり見落としていた。 わかったつもりが勘違いだった。 どうしてあんな判断をしたんだろう…
仕事でこんなミスなんてしたことはない、という人はまずいないだろう。
ミスをしたいと思っている人なんていないはずなのに、なぜか起きてしまうミス。
何となく「ミスは気をつけていれば防げるはずだ」なんて簡単なことではないな、というのはわかる。
ミス【miss】
[名] (スル)誤ること。まちがえること。失敗。ミステーク。「捕球をーする」「計算ー」
大辞泉
なるほど…しかし、ミスを防ぐ方法はわからない。
いい本はないものかと本屋をブラブラしていたら、都合よく「図解 仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方」という本を見つけた。
これだ。
この本は「仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方」に図解を加えてさらにシンプルにまとめたものだ。
1つの項目につき見開き2ページで左側が文章、右側が図解の構成になっていてさくっと読める。
この本の「はじめに」にもあるように、正直に言って目から鱗の目新しいことが書いてあるわけではない。
しかし、様々なパターンのミスとそれらが起きてしまう仕組みが書かれている。
自分がやってしまいがちなミスの仕組みを知り、自分なりの対策を考えていくヒントをもらえる本だ。
この春、新社会人として働き始め、一刻もはやく仕事ができるようになって役に立ちたいと焦りを感じているあなたへ。
働き始めてから何年か経ち、より複雑で難しい仕事を担当するようになり、着実に仕事を進めていきたいと考えているあなたへ。
と書いてみたが、私もまだまだこの本のお世話になる必要がある人間なので、そんな自分へも向けて。
各章まとめ
- 第1章 記憶のミス
- 第2章 注意のミス
- 第3章 コミュニケーションのミス
- 第4章 判断のミス
第1章 記憶のミス
この章のポイントは、人が同時に意識を向けられる(ワーキングメモリに保持できる)情報の数はとても少ないということだ。
だいたいのことは自分が思っているよりもずっとはやく忘れてしまう。急がしい時はなおさらだろう。
記憶のミスの対策は、基本中の基本だがとにかくメモをすること。
なんだそんなことかと思うかもしれないが、こんなに簡単に対策ができるならやってみて損はない。
メモをして、覚えておく必要があることを出来るだけ頭の外へ出し、ワーキングメモリを有効に活用しよう。
私たちの会社では全社的にコミュニケーションツールとしてSlackを使っていて、チームでは分報を導入している。
100%活用しきれているとは言わないが、分報は頭の外に出して考えるということが自然とできるので、なかなかいい仕組みだとあらためて思う。
話は逸れるがSlackは便利な反面、集中力を削がれることも多く未だにつき合い方が悩ましい…
第2章 注意のミス
白いTシャツのチームがボールを何回パスするか、数えてみよう。
どうだっただろうか?
人は自分が思っている以上に、注意を向けていることにしか気がつかない。
この動画を見た時に起きたことは、日常でも起きている。
この章のポイントは2つだ。
無視をするのにもワーキングメモリを使う
さっきの動画では黒いTシャツのチームは無視をする必要があった。
実は、無視をするのにもワーキングメモリは使われている。
「黒いTシャツのチームのパスは数えない…黒いTシャツのチームのパスは数えない…」
これは余計なことにも注意が向いている状態だ。
仕事でも「どうしてあんなミスをしたんだろう…」「次は失敗しないようにしないと…」と余計なことにも注意が向いている状態になっていないだろうか?
余計なことにも注意が向いてしまうのを防ぐ対策としてもメモは有効だ。
ぐるぐると頭の中で繰り返している悩みを外に出して、整理をする。
書き出してみたら、案外大したことのないこともあるだろうし、次はこうしようという気づきも出てくるだろう。
悩みから次はこうしようという成功へのイメージに置き換えて、ワーキングメモリの無駄使いを防ごう。
基本の徹底
さっきの動画を見て、難なくできた(ここではできたと書いておく)人もいるだろう。
できたあなたは、バスケットボールやサッカーなどのスポーツ経験者ではないだろうか?
良い意味での「慣れ」は余裕をもたらす。
これは仕事でも言えることだ。
慣れないうちは、意識しないとできないことが多い。
ワーキングメモリがフルで使われている状態だ。
そこに何か別のことが割り込み、ワーキングメモリがあふれた結果ミスが起きる。
基本を徹底し、慣れることで意識しなくてもできるようになっていく。
そして余裕が生まれ、次のレベルのより難易度の高い仕事ができるようになっていく。
最初のうちはチェックリストで管理をして、慣れたら減らしていくのでもよい。
ミスを後悔するよりも、基本を訓練しよう。
第3章 コミュニケーションのミス
この章のポイントは、人は自分が思っているよりも、自分の記憶に依存してものを考えているということだ。
「昨日、渋谷で友達とお酒を飲んだ」という会話で考えてみよう。
この会話では何時に、渋谷のどこで、お店なのか自宅なのかといった情報が省略されている。
話し手は記憶を省略して話しているし、聞き手も自分の記憶を使って省略された部分を補完して聞いている。
話し手は自宅でビールを飲んだイメージで話しをしていて、聞き手はおしゃれなバーでカクテルを飲んだイメージで聞いているかもしれない。
そして、お互いが記憶のギャップに気づいていない。これがコミュニケーションミスの原因だ。
仕事を覚えた頃が危険
第2章のまとめでは、基本を徹底し慣れることがミスを減らすと書いた。
しかし、仕事を覚えて慣れてきた頃にもミスは潜んでいる。油断は禁物だ。
仕事に慣れて知識や経験が増えてくると、何か相談を受けた時に「あぁ、あのことね」と思いつくこともあるだろう。それがわかったつもりの罠だ。
わかったつもりになってしまうと、相手がなぜそう言っているのかに意識が向かず、自分の思い込みで理解をしてしまう。
わかったつもりは「中途半端に経験を積んだ人が起こしやすい傾向にある」…耳の痛い言葉だ。
仕事ができる人は思い込みの怖さを知っている。そして、相手の真意を理解するために確実に、丁寧に質問をして掘り下げていく。
わかったつもりを乗り越えて、さらに一歩上を目指そう。
ここでちょっと番外編
私はチームのメンバーと毎週1on1をしている。
コミュニケーションのミスの対策として書かれていたものの中で、1on1をする時にも意識すると良さそうなものがいくつかあったので書いておきたい。
- 相手に意識を向けたシンプルな質問をする。自分に意識を向けた複雑な質問はしない。
- 相手に意識が向いている: 最近チームについてどう思いますか?
- 自分に意識が向いている: 最近チームでは○○が課題で対策した方が良いと思うのですが、どう思いますか?
- 相手に意識が向いている: 最近チームについてどう思いますか?
- 「自分は相手のことを知らない」と思う
- 相手はこういう人だという思い込みをしない
- 言葉の奥にある相手の反応に注意する
- 言葉以外の表情、しぐさ、話し方へ注意を向ける
- 相手へ意識を向け、自分の気配を消す
- 相手へ意識を向けた質問を繰り返し、相手の意識も相手へ向くようにする
- 意識を事柄から人へ向ける。「で、あなたはどうしたい?」
- 〜したい、〜と感じる、〜と思うを引き出す
本筋からは逸れるので箇条書きで簡単に書いたが、1on1では「自分の気配を消す」ことを意識してやってみたいと思う。
第4章 判断のミス
速い思考と遅い思考
人の思考には「速い思考」と「遅い思考」の2つがある。*3
- 「速い思考」が判断のミスをもたらす
- ミスをなくすには「速い思考」の判断を「遅い思考」で検証することが必要
速い思考 = 直感と考えた時に、羽生善治さんの「直感の7割は正しい」という言葉が最初に思い浮かんだ。
7割正しいのなら速い思考の方がいいんじゃないかとも思うが、よく考えよう。
羽生さんのおっしゃる「直感」というのは、これまでの気の遠くなるような膨大な思考の積み重ねの結果、直感の速さで遅い思考での判断ができているということだと私は思う。
私の速い思考とは次元が違うのだ。
比べるのもおこがましいが、私が仕事のことを考える時にそこまでの積み重ねはない。
ここは素直に、速い思考を遅い思考で検証するということを地道にやっていこう。
評価基準の違い
遅い思考で考えても、回避できない問題もある。 そもそも自分の評価基準と相手の評価基準が違っている場合だ。
いくら遅い思考で考えても、前提が違っていたら相手が求めるものと違う結果を出してしまう。
それを防ぐには自分と相手の評価基準は違うかも?という前提に立って考える必要がある。
始めに、その仕事に対して相手はどういう評価基準を持っているのかを確認してから進めることで、判断のミスはだいぶ減らせるはずだ。
また、私もそうだが何かを言う時に必ずしも遅い思考で考えられたことを言っているわけではない。
そういう時には質問をすることで、相手に遅い思考で考えるきっかけを与えることもできる。
「こんなことを聞いても大丈夫だろうか?」と心配せずに、お互いのためにもどんどん質問をしてすれ違いを解消していこう。
おわりに
私たちは人間なのでミスを「絶対」しないというのは無理な話だ。
しかし、自分のミスに向き合い、繰り返さないように対策することは仕事を進めていくうえで欠かせないスキルだ。
この本の終わりでも、論語を引用し「ミスを犯しながら、改めないのがミスである」と述べている。
ミスを改めようとする姿勢は周りでいっしょに働いている人が必ず見ている。
それが信頼につながり、だんだんと仕事を任せられるようになっていく。
仕事ができるようになるというのはその積み重ねだと私は思う。
仕事の進め方についてあたらめて考える機会になった一冊だった。
ここで書いた他にもなるほどなと思う内容がいくつもあったので、興味を持っていただけたらぜひ読んでみて欲しい。
*1:George A. Miller 「The Magical Number Seven, Plus or Minus Two: Some Limits on our Capacity for Processing Information」http://www2.psych.utoronto.ca/users/peterson/psy430s2001/Miller%20GA%20Magical%20Seven%20Psych%20Review%201955.pdf
*2:Nelson Cowan 「The magical number 4 in short-term memory: A reconsideration of mental storage capacity」 https://static.cambridge.org/resource/id/urn:cambridge.org:id:binary:20170214114618504-0222:S0140525X0135392X:S0140525X01003922a.pdf
*3:Daniel Kahneman Thinking Fast & Slow https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/90410.html